ECサイトを安定的に運営し、事業拡大を目指す上で大切なのが各種データを用いた「分析」です。
ECサイト運営には、ECサイトの状態を把握し、改善点や次に打つ施策を随時検討する必要があります。
ただ、分析と一括りに表現しても、どの項目をどのように観測し分析するべきか悩む方もいるでしょう。
そこで本記事では、ECサイトの発展に必要な分析方法についての概要とおすすめのツールを紹介します。
「ECサイトの分析が必要」と認識していても、なぜ必要なのかを理解できていなければ、本質的な結果にはたどり着けません。
ECサイトの分析結果を最大化するには、目的を明確にし必要なデータを取得することが大切です。
ECサイトを分析する目的でもっとも重視されるのは、購入件数・単価などの目標を達成させるために何が必要かを見極めることです。
目標達成のために何が足りないのかを分析結果から得られれば、改善点・指標を具体的に把握できます。
ECサイトのデータ分析では、以下の5つの手順で実施することが一般的です。
ここでは、以下の手順について解説します。
1. 目的・課題の明確化 2. 仮説を立てる 3. データを収集する 4. 比較データを分析 5. 改善策を実行 |
データ分析の最初のステップとしてまず取り組むべきなのが、目的・課題の明確化です。
最初の段階で何を達成したいのか、どの問題を解決したいのかを具体的に定義づけできれば、データを有効に活用できます。
定義づけると効果的な目的・課題の例は以下の通りです。
目的 | ・売上を増加させたい ・CV率を高めたい ・離脱率を減少させたい ・リピータを増やしたい |
課題 | ・特定のページでの離脱率が高い ・サイト全体の離脱率が高い ・トラフィック数が少ない |
これらの具体的な目的・課題が固まると、何についてデータ分析しなければならないかが明確になります。
≫≫ ECサイトの集客は難しい?効果的な5つの方法を徹底解説
明確化した目的・課題に対して行うべきなのが、解決に向かうための仮説を立てる作業です。
この仮説は、結果的に間違っていたり、厳密に策定できなかったりしたとしても構いません。
仮説の立て方の例を以下に記載します。
課題 | ・特定のページで離脱率が高い |
原因の推測 | ・UIが悪い ・ページの読み込み速度が遅い ・情報量が少ない |
解決策の検討 | ・UIの改善 ・無駄な装飾を減らしページを軽くする ・リライトを施し情報量を増やす |
解決策を検討し、確度が高いと想定されるものから順に検証に入るともっとも効率的です。
仮説の検証に必要なのが各種データで、どのようなデータが必要になるのかを検討しなければなりません。
検証に用いられるデータの例は以下の通りです。
検証に用いられるデータ例 |
◾️|カゴ落ち率 ◾️|トラフィック数 ◾️|CV率 ◾️|クリック率 ◾️|客単価 など |
これらのデータは大枠のものであり、検証したい仮説によってはさらに粒度の細かいデータを取得する必要があります。
データの収集ができれば、次は分析です。
データ分析で大切な観点が「比較」です。
例えば、CV数を単体で「10」と捉えても、そこから把握・予測できる内容には限界があり、効果的な分析はできません。
比較対象として選ぶことで、より精度が高まる項目は以下の通りです。
比較対象項目例 |
◾️|競合・関連サイト ◾️|期間・時系列 ◾️|商材別 ◾️|顧客セグメント ◾️|各目標値 |
これらの項目と比較してデータ分析を進めると、仮説の検証・実証に役立ちます。
また、データ分析の際には一般的に「ABテスト」「統計分析」「ヒートマップ分析」の手法を用います。
比較とデータ分析に用いる手法を組み合わせて仮説の検証を進められれば、今後行うべき改善方法が明確になります。
データ分析の結果に基づき、実際のECサイト改善を行い効果を確認します。
ECサイトの改善は実行したら終わりではなく、必ずPDCAサイクルを回しながらより改善できる案を策定し実行するフローが大切です。
また、一度の実行で施策が成功した場合でも、PDCAサイクルを基に、さらに成果を最大化できる施策を検討する必要があります。
ECサイトを運営するなかで、さまざまなデータ・数値が指標として現れます。
特に以下の10の指標は今後の運営を予測・改善するために重要です。
1. 売上高 2. 利益率 3. アクセス数(集客数) 4. CVR 5. カート離脱率 6. 直帰率 7. リピート率 8. 顧客単価 9. LTV 10. 顧客会員数 |
売上高は、一定期間内にECサイトで販売された商品の総額を示し、ビジネスの収益性が直接反映される重要な指標です。
分析の際には、例えば月間売上高を計測して、季節的なトレンドやキャンペーン、広告の効果を評価できます。
また、製品・サービス別売上高であれば、人気商品や不調商品の把握が可能となり、在庫管理や販売戦略の最適化に役立ちます。
売上高の定期的なモニタリングは、ECサイトの健全な成長を支える基盤となります。
利益率は、売上に対する利益の割合を示します。
利益率も売上高と同様にビジネスの収益性を評価するためには欠かせない指標であり、種別としては以下の2つがあります。
種別 | 概要 |
粗利益率 | ・売上高から売上原価を差し引いた額を売上高で割った金額を指す ・粗利益率を算出すれば、商品の原価と売価のバランスを評価できる |
純利益率 | ・総収入からすべての費用を差し引いた純利益を売上高で割った金額を指す ・純利益率を算出すれば、ECサイト全体の収益性を評価できる |
粗利益率と純利益率の2つを分析すれば、ECサイトの運営が収益面でどのような状況なのかを把握できます。
アクセス数は、一定期間内にサイトを訪れたユニークユーザの総数です。
アクセス数が示す結果としては、サイトの認知度やマーケティング活動の効果などが挙げられます。
また、アクセス数を把握する際には、総数だけでなく流入経路別でも算出するとより効果的な分析が可能です。
観測すべき主な流入経路は以下の通りです。
主な流入経路 |
◾️|検索エンジン ◾️|リスティング広告 ◾️|ダイレクトメール ◾️|SNS ◾️|外部リンク |
総アクセス数を観測すれば、集客の全体的なトレンドを評価できます。
一方で、流入経路別のアクセス数からは各チャネルの効果を特定し、効果的な集客手段を見つけられます。
ECサイトにおけるCVR(コンバージョン率)は、サイトを訪れたユーザのうち、実際に購入に至った割合を示します。
CVRは、サイトのパフォーマンスとユーザーエクスペリエンスを評価するために役立つ指標です。
CVRは%で示し、計算式は以下の通りです。
(コンバージョン数 ÷ 訪問数)× 100 = CVR(%)
一般的にECサイトの平均CVRは3%と算出されており、取り扱う商材にもよりますが、この数値を上回っているか否かで改善策を検討することが効果的な対応といえます。
ECサイトでCVRが平均より下回る原因の例は以下の通りです。
CVRが平均より下回る原因例 |
◾️|市場のトレンドの変化で需要が下がった ◾️|何らかの理由でトラフィック数が下がった ◾️|人気商品が売り切れて再入荷できていない ◾️|広告費を下げた ◾️|ユーザ目線に欠けた運営になっている ◾️|商品に対するターゲティング・訴求を間違えている ◾️|競合サイトに商品・訴求などで負けている |
自社のECサイトのCVRを算出後、平均より下回っている場合はこうした原因から仮説を立て検証を行うと、早期の改善が見込めるでしょう。
≫≫ ECサイトのCVRが向上する改善方法10選!平均コンバージョン率も解説
カート離脱率は、別名「カゴ落ち率」とも呼ばれる指標で、商品をカートに追加したものの、購入を完了しなかったユーザの割合を示します。
カゴ落ちはECサイトの永遠の課題といっても過言ではなく、割合を0%にするのはほぼ不可能です。
ただ、少しでも0%に近づけるための施策を打てるかがECサイトの発展には重要です。
カゴ落ちが起きる主な原因は以下の通りです。
カゴ落ちが起きる原因例 |
◾️|ページの読み込み速度が遅く、購入画面への遷移がスムーズではない ◾️|購入にアカウント登録が必要 ◾️|支払い手続きが複雑 ◾️|決済ページで意図しない追加料金が加算される ◾️|サイトの信頼性が低い ◾️|支払い方法の選択肢が限られている ◾️|エラーで決済できない ◾️|配送料が高い ◾️|届くまでに日数がかかる ◾️|返品条件が不明瞭 ◾️|商品検索の精度が低い・使いづらい |
カゴ落ちにユーザが至る原因は多岐にわたり、いくつかの原因が絡み合っているケースもあるため、原因究明のためのデータ分析は非常に重要です。
≫≫ カゴ落ちとは?発生する10の原因とカゴ落ち対策も含めて解説
≫≫【2024年最新】カゴ落ち対策ツール10選!カゴ落ちの影響から対策まで徹底解説
サイトに訪れたユーザのうち、1ページだけ閲覧し他のページに移動せずにサイトを離れた割合は直帰率として計測されます。
直帰率が高くなる理由は以下の通りです。
直帰率が高くなる原因例 |
◾️|アクセスしたページに期待していた情報がなく興味を失った ◾️|読み込み速度が遅い ◾️|UI・UXが悪く利便性が低い ◾️|内部リンクが少ない |
ECサイトの場合構造的に商品ページから購入・決済ページに遷移するようになっているケースが多く、直帰率が高い主な要因は、この動線に課題があり購入まで至っていないと考えられます。
ECサイトでは、直帰率が高い原因がサイトのどこにあるのかを分析し、施策を打つことが必要です。
≫≫ 直帰率の平均はどれぐらい?直帰率を確認方法・改善方法を解説!
リピート率は、一度購入した後一定期間内に再度購入したユーザの割合を示します。
一般的にECサイトのリピート率は30~40%といわれており、算出するための計算式は以下の通りです。
(測定期間内のリピート顧客数÷累計新規顧客数)×100=リピート率(%)
リピート率は、顧客ロイヤルティを評価するために欠かせない指標であり、分析に用いれば現状のサイトの魅力度を推量し、リピータを増やすための施策を打ちやすくなります。
リピート率が向上すれば、ECサイトの売り上げが安定するため、万が一低い場合は優先的に改善したいポイントです。
≫≫ ECサイトの平均リピート率とは?計算方法から6つの改善方法を徹底解説
顧客単価は別名AOV(Average Order Value)とも呼ばれ、顧客一人の一回当たりの購入金額を指します。
ECサイトに限らず、原則小売業が売り上げを増加させるためには、購入する客数を増やすか顧客単価を上げるかのどちらかが必要です。
ECサイトの性質・運営状況にもよりますが、アクセス数を伸ばすことが難しい場合は、顧客単価の上昇を目指して改善案を打つ必要があります。
顧客単価を上げるために有効な施策は以下の通りです。
顧客単価を上げるための施策例 |
◾️|商品の単価を上げる ◾️|アップセル・クロスセルを効果的に提案する ◾️|バンドル販売を設定する ◾️|支払い方法を増やす |
これらの施策を実行すれば一定の効果が見込めますが、例えば単価を上げる際に価格設定に失敗した場合、顧客単価を上げるどころかより売れなくなる危険性があります。
顧客単価の改善施策は、各種データを分析した上での慎重な判断が求められます。
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)は、一人の顧客との取引を始めてから終了するまでの総利益を指します。
一般的に、マーケティング業界では既存顧客の維持よりも新規顧客の獲得のほうがコストがかかるとされています。
そのため、既存顧客がどれだけ利益をもたらしてくれるかが重要なポイントとなります。
LTVの主な計算方法は次の2つです。
①複数の指標から算出
(平均購買単価 × 粗利率)×購買頻度×顧客の継続購買年数=LTV
②粗利から算出
(売上-原価)÷購入者数=LTV
LTVへの考え方で注意すべきなのは、LTVを高めるための施策を必要以上に打ちすぎるとコスト増となり、最終的な利益が減少する可能性がある点です。
LTVを高める施策を検討する際には、一人の顧客を獲得するためにかかる費用を指す「CPA」との兼ね合いをチェックする必要があります。
LTVとCPAをデータ分析で明確化できれば、ECサイトでかけられる集客コストの限界点を把握し、恒常的な収益化が実現できます。
顧客会員数は、ECサイトに会員登録しているユーザ数を指します。
顧客基盤の拡大や広告・SEOなどのマーケティング施策の結果を推量するために役立つ指標です。
一方で、顧客会員数に対し売上高・利益率が下振れしている場合は注意が必要で、以下の現象が起きている可能性を考慮すべきです。
顧客会員数減少について |
◾️|キャンペーン施策につられて登録しただけで、再度訪問していない ◾️|魅力的な出品・顧客へのアプローチができていない |
顧客会員数と売上高・利益率のバランスには常に留意しておくようにしましょう。
ECサイトの分析には、次の5つのツールの利用がおすすめです。ここからは、おすすめの分析ツールについて順に解説します。
・Google Analytics4 ・Google Search Console ・User Local ・RankTracker ・Microsoft Clarity |
Google Analytics4(GA4)は、Googleから基本的に無料で提供されている多機能分析ツールです。ECサイトのみならず多くのサイトで分析に利用されています。
GA4ではユーザがアクセスした瞬間から離脱までのさまざまなサイト内での行動やユーザの属性などをトラッキングでき、以下のような内容を計測できます。
Google Analytics4で計測できるデータ |
◾️|流入経路 ◾️|アクセスしたページ ◾️|セッション数 ◾️|CV数 ◾️|クリック数 ◾️|ユーザが閲覧に利用したデバイス |
これら以外にも計測できる項目は多岐にわたり、独自にカスタムすれば必要なデータをさらに効率よく取得できます。
ただし、ECサイトの分析で利用したいユーザのサイト内行動関連のデータでは、例えば購買単価と紐づけた分析や自社が保有する顧客データとの比較が難しいケースがあります。
GA4は無料で高機能な分析ツールですが、ECサイトの分析に用いる場合は、他の分析ツールとの併用を検討するとよいでしょう。
Google Search Console(GSC)は、Google検索結果におけるサイトのパフォーマンスを管理・改善するために役立つ無料の分析ツールです。
ECサイトの運営では、SEO対策の成果を確認し、サイトの検索流入についての改善施策を検討する際に活用できます。
GSCで取得できるデータは以下の通りです。
Google Search Consoleで取得できるデータ |
◾️|検索クエリ ◾️|クリック数 ◾️|表示回数 ◾️|平均CTR ◾️|平均掲載順位 など |
また、GSCではURL検査によるインデックス登録のリクエストが実行でき、新規に作成したページがすぐに検索結果に出るように設定できます。
GSCはECサイトのSEO対策の観測・改善に役立ちますが、競合サイトとの比較や、競合サイトが流入を獲得しているキーワードの検証などはできません。
SEO対策には他のツールとの併用が望ましいといえます。
User Localは、株式会社ユーザローカルが提供している分析ツールで、さまざまなソリューションに分割されています。
ここでは、主な以下のソリューションを紹介します。
ソリューション | 概要 |
User Insight | ・GSCとの連携機能で各種データを見やすく整理 ・データを可視化し工数を削減 ・ヒートマップ機能によりサイト内のユーザ行動の分析が可能 |
Social Insight | ・SNSでのプレゼントキャンペーンを実施可能 ・複数のSNSを一元管理 ・競合のSNSと一括比較 |
これらのほかに、ニュースサイトの運営に特化した「Media Insight」と呼ばれるソリューションも提供しています。
User Localでの分析はAIを活用しており、特にヒートマップとテキストマイニングに長けている分析ツールです。
ただし、全ての機能を利用するには有料プランへの加入が必要です。
ロンドンで開発されたRankTrackerは、検索エンジンのランキングを追跡し、キーワード戦略を最適化するために役立つ分析ツールです。
Googleのみならず、Yahoo!やBingの検索ランキングも追跡できます。
GSCとの連携も可能で、競合サイトとの比較・複数のキーワードでのサイト検索順位も調べられる点が強みです。
無料でも一部の機能は利用可能ですが、より詳細な分析を実施したい場合は有料版への登録が必要です。
Microsoft Clarityは、2020年10月にローンチされた分析ツールで、無料でヒートマップ機能が使えます。
また、最大の特長が「レコーディング機能」で、ユーザがサイト上で行った以下の動作を録画できます。
Google Search Consoleで取得できるデータ |
◾️|クリック ◾️|スクロール ◾️|ページ遷移 ◾️|フォームへの入力 ◾️|マウスの動き |
ヒートマップ機能と合わせれば、ユーザのサイト内行動分析の精度が格段に向上するでしょう。
ECサイトでのCVRの向上に対する施策で効果的なのがサイト内検索の改善です。
特に、ユーザはサイトに到達後も探している商品をサイト内で検索する場面が多く、その際にサイト内検索機能が使いづらいと離脱やカゴ落ちの原因となります。
サイト内検索機能を充実させて、検索のミスマッチによる機会損失を防ぎ、売上やCVRアップが可能なツールが「GENIEE SEARCH(ジーニーサーチ)」です。
GENIEE SEARCHは、関連アイテムや検索キーワードのサジェスト表示のほか、商品の絞り込み機能でユーザの購買行動をサポートできます。
また、GA4との連携により検索結果の計測データを使った分析や改善検討も可能です。GENIEE SEARCHは、ECサイトをさらに発展させていくために役立つツールです。
GENIEE SEARCH編集部
(X:@BST_hoshiko)
ECサイトや企業サイトにおける快適なユーザ体験を実現するための導線改善方法から、ECマーケティングの手法まで幅広く情報を発信しています。