OMOマーケティングとは、オンラインとオフラインの顧客体験を融合させる新しいマーケティング戦略です。デジタルとリアルの境界を越え、顧客に一貫した体験を提供することで、ブランドの価値を高め、顧客ロイヤルティを育むことが可能になります。
本記事では、OMOマーケティングの基本概念に加え、その4つのメリットと注意点を具体的な事例を交えて徹底解説します。
OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、直訳すると「オンラインとオフラインの融合」を意味します。例えば昼時に行列ができているファストフード店で食べ物を購入する場面を思い浮かべてみてください。
忙しい業務の合間に時間を効率的に使い昼食を買いたい、といった場合に利用するのがモバイルオーダーアプリです。食べたい商品をスマートフォンのアプリから事前に注文すれば、列に並ばずすぐに商品を受け取ることができます。
このようにOMOマーケティングとは、オフラインとオンラインの両面から顧客との接点を持ち、購買体験を高める戦略です。
オムニチャネルとは企業が持つすべてのチャネルを使用したマーケティング手法です。オムニは「すべて」、チャネルは「媒体」を意味します。チャネルとは小売店やECサイト、SNS、インターネット広告などのあらゆる媒体や流通経路を意味します。
オムニチャネルとOMOは、その目的とマーケティングを行う主体性に違いがあります。オムニチャネルでは消費者の購買意欲を促進する目的で、オンラインとオフラインを明確に区別します。企業視点のマーケティング手法であり、ECサイト限定商品の発売などが例としてあげられます。
一方、OMOは顧客満足度を最大化する目的でオンラインとオフラインを融合させる手法で、モバイルアプリを使って決済するサービスのモバイルペイメントがあります。 モバイルペイメントにより、 無人レジ導入による業務効率の向上やプリペイド式のモバイルペイメントの事前チャージにより、追加購入や次回来店の促進が期待できます。オンラインとオフラインを明確に区別しない点や顧客視点のマーケティング手法である点で、オムニチャネルと異なります。
O2Oとは「Online to Offline」の略で、顧客をオンラインからオフラインへ誘導するマーケティング手法です。
オンライン上にある情報や広告などを通じて、実店舗への来店やサービスの利用へと誘導する戦略です。例えば、SNS上で実店舗で利用できるクーポンなどを配布する手法がO2Oに当たります。
オムニチャネル同様、企業視点でマーケティングを行う点やオンラインとオフラインを明確に区別する点でOMOと異なります。
前述の通り、OMOマーケティングは、オンラインとオフラインの垣根を超えた統合型のアプローチで、企業と顧客の関係をより深く、効果的に構築することが可能です。ここでは、企業がOMOマーケティングを導入することで得られる4つの大きなメリットについて詳しく解説します。
1. 顧客満足度の向上 2 販売における機会損失の減少 3 LTV(顧客生涯価値)の向上 4 ブランドイメージの統一 |
OMOは消費者の購買意欲の促進を目的とした顧客目線のマーケティング手法です。消費者は、ECサイトで気になった衣料品を実店舗で試してみて購入したり、モバイルアプリを利用してより便利に買い物をしたりと、高い顧客体験が得られます。
こうした顧客体験の向上はリピーター獲得につながり、新規顧客も獲得しやすくなります。
顧客の基本属性(氏名、住所、年齢、性別など)、購入した商品やサービス情報、これまでの購入金額、リピート回数、電話やメール、公式LINEからの問い合わせ履歴、実店舗の接客内容や訪問回数、行動履歴などの情報をオンライン、オフラインを区別せず一元管理することで、どのチャネル経由で顧客と接する場合でも、顧客それぞれのニーズや状態に合わせて最適な提案やフォローができるようになります。
OMOによってオンライン、オフラインの区別なく顧客が商品やサービスを購入する前後の動向を知ることができます。したがって、どのようなチャネルにいる顧客であっても、購買意欲が高まる瞬間を適切にとらえアプローチできるため、商品・サービス販売の機会損失を減少できます。
OMOによりLTV(顧客生涯価値)の向上が見込めます。LTVとは「Life Time Value」の略で、顧客一人がある企業やブランドで取引を開始してから終了するまでの期間(顧客ライフサイクル)でどれだけも利益をもたらすかを算出した指標です。一般的に顧客ライフサイクルが長いほどLTVは向上する傾向にあります。近年、サブスクリプション型サービスの増加に伴い、重要な指標として注目されるようになりました。
OMOではあらゆる販売チャネルの情報を集約するため、顧客のリピート率向上や顧客単価向上が実現しやすく、LTVの向上につなげることができます。
OMOに取り組むことでECサイトをはじめとしたオンラインや実店舗のようなオフラインのチャネルで横断的にブランドイメージを構築できます。顧客に対して統一感のあるブランドイメージを発信することで、効果的に商品やサービスを訴求することが可能です。
OMOマーケティングを効果的に実現するためには、顧客体験を向上させる具体的な施策が重要です。ここからは、オンラインとオフラインを融合させた6つの施策について解説します。
1. スマートフォンアプリ 2 無人レジ 3 ポイントプログラム 4 モバイルイベント 5 デジタルサイネージ 6 チャットボット |
事前に商品を注文できるファストフード店のモバイルオーダーなどが該当します。モバイルオーダーではスマホのアプリ上で事前に商品を注文することで、店頭で列に並ばずに商品を受け取ることができます。
また、私たちが日常の中でよく利用するキャッシュレス決済もOMOの施策の一つです。スマホのアプリに表示されたバーコードやQRコードを店員が読み取ることで、スピーディに決済が完了します。
スーパーマーケットやコンビニなどで徐々に増えつつある無人レジもOMOの施策です。無人レジでは顧客が商品のバーコードを読み取るというプロセスを担うことで、購入者の商品購入までの待ち時間を減らすことができます。また、それまで有人レジに割いていた人的リソースを他の顧客満足度を向上させるための施策に割り当てることができます。
スマホのアプリ限定で貯めることができるポイントプログラムもOMOの施策です。例えば、無料通信アプリ「LINE」のポイントプログラムなどが該当します。ポイントカードを持ち歩く必要がなく、スマホのアプリを提示するだけでポイントを貯めたり使ったりすることができ、手軽に利用可能です。また、ポイントプログラムを展開することで顧客を実店舗に誘導できます。
アプリ限定のクーポンなどを発行することで、ポイントプログラム同様に顧客を実店舗へ誘導することができます。また、実店舗への来店を条件に商品やサービスが割引になる施策も有効です。独自のアプリを導入するきっかけになるほか、顧客情報を効率的に蓄積できます。
デジタルサイネージとは大型の液晶ディスプレイに商品やサービスを表示するサービスのことです。限られたスペースで商品やサービスに関する複数の情報を掲載できます。タッチパネル式のデジタルサイネージの導入やコンテンツの詳細化などにより、顧客のニーズに合致した商品やサービスの提案が可能になります。
チャットボットとはAIを活用したチャット形式の問い合わせ機能です。顧客が商品やサービスに関する問い合わせをチャットに投稿するとAIが回答してくれます。顧客は電話やECサイトのフォームから商品やサービスに関する問い合わせを行う必要がなく、顧客満足度の向上につながります。
また、顧客の属性情報を詳細に収集することでチャットボットの精度が向上し、他のマーケティング戦略の検討に活かすことができます。
OMOを実践している企業は、オンラインとオフラインをうまく融合させたマーケティング施策を展開しています。ここからは、具体的な5つの企業事例を紹介し、どのように顧客体験を向上させているかを解説します。
1. 【サントリー】LINEでお好みのコーヒーをオーダー 2. 【西武・そごう】実店舗の在庫とオンライン在庫を連動 3. 【BEAMS】販売員がECサイト上で接客 4. 【Zoff】メガネをバーチャル試着 5. 【Amazon】レジなし無人店舗 |
コーヒーブランド「BOSS」を展開する大手飲料メーカー「サントリー」が運営する「TOUCH-AND-GO COFFEE」(東京・日本橋)では、アプリから自分好みのコーヒーを注文できます。顧客はLINEからベースとなる味やフレーバーなどを選択し注文することで、店舗では待ち時間なしで商品を受け取ることができます。決済は注文時にLINE上で完了できるるほか、できあがった商品は専用のロッカーから受け取ることができるため、スムーズに自分好みのコーヒーを味わうことができます。
大手百貨店「西武・そごう」が東京・渋谷で運営する実店舗「CHOOSEBASE SHIBUYA」ではアパレルや化粧品、食品、雑貨などのD2C商品を中心に取り扱っています。「CHOOSEBASE SHIBUYA」では在庫情報を専用のアプリと連携することで、実店舗で商品を見た後にECサイトで購入できるほか、ECサイトで購入した商品を店頭で受け取ることができます。渋谷という好条件の実店舗を、オンラインチャネルで強化した成功事例です。
アパレル販売大手「BEAMS」もOMO施策を積極的に展開する企業の一つです。アパレル業界の中でもいち早くECサイトを立ち上げたBEAMSでは実店舗とECサイトの在庫情報の連携や顧客の「カルテ」による販売業務の効率化などを実現しています。
また、ECサイトでは販売員によるチャット接客などの取り組みを行っています。無機質なオンライン上のやり取りではなく、顧客に向き合う姿勢をオンラインチャネルで示すことで収益向上につなげています。
メガネ販売大手「Zoff」が公式オンラインストア上で展開する「EASee Zoff Virtual Fitting」では、実店舗に行かなくてもオンライン上でメガネを試着できます。顔のサイズを正確に寸法することで、メガネを試着した際の自身の顔の画像を3Dで確認することができます。
また、「Zoffスタッフコレクション」ではZoffのスタッフがメガネを使ったスタイリングやメガネを選ぶ際のコツを紹介するコンテンツが配信されており、顧客の購入を後押しする役割を担っています。
米EC大手「Amazon」が世界に先駆けて展開したのがレジのない無人店舗「Amazon Go」です。Amazon Goでは専用のアプリ「Amazon Go」をダウンロードしAmazonアカウントにログインしておくことで、退店時に手にした商品の決済が自動で完了します。顧客は商品を購入するためにレジに並ぶ必要がなく、ストレスフリーで商品を購入できますす。
OMOマーケティングを導入することで多くのメリットが期待できますが、その反面、導入時にはいくつかの注意点もあります。ここからは、ビジネスモデルや初期投資、運用面における重要なポイントについて解説します。
・ビジネスモデルによって向き不向きがある ・長期的な運用が必要 ・初期投資のハードルが高い |
OMOの導入は実店舗などのオフラインチャネルとECサイトなどのオンラインチャネルを運用していることが前提です。したがって、実店舗だけで展開するビジネスモデル、ECサイトのみを展開するビジネスモデルの場合はOMO施策を実施できません。OMOの導入はオンラインチャネル、オフラインチャネルの両方を運用している事業に向いているマーケティング手法です。
OMOを導入したからといってすぐに収益向上につながるわけではありません。顧客の属性や購買行動の情報を収集・分析し、それぞれの顧客に応じた施策を展開できなければOMOの有効な展開ができず収益につながりません。OMOの目的は顧客満足度の向上であり、そのためには長期的なLTV向上に努める必要があります。
OMO導入のためにはオフラインチャネルとオンラインチャネルの情報を連携、もしくは一元化するためにデータベースの設計・構築が必要です。また、ユーザー向けのアプリケーション開発が必要な場合はさらなる初期投資が必要になります。すでに両者のデータベースがある場合でも統合する必要があり、コスト面・技術面でのハードルが高くなります。
OMOはオンラインチャネル、オフラインチャネルをシームレスに融合することで顧客満足度を向上させるマーケティング手法です。導入には両チャネルを展開していることや長期的に戦略を展開する必要がありますが、多様な顧客のニーズに効率的に対応できるメリットがあります。
OMO導入では、オンラインチャネル内で顧客のニーズに対応した商品やサービスへの適切な誘導が必要です。「GENIEE SEARCH」はECサイト内での検索機能のほか、顧客インサイトの分析を行うことができます。
GENIEE SEARCH編集部
(X:@BST_hoshiko)
ECサイトや企業サイトにおける快適なユーザ体験を実現するための導線改善方法から、ECマーケティングの手法まで幅広く情報を発信しています。